日々現状維持

日暮れて道はなし

プロフィール

七橋綴(ななつ☆)

Author:七橋綴(ななつ☆)
大学生:♂
2013年―――気づけば今年誕生日を迎えると四捨五入で30歳
地獄の業界、SE業。
NEETになりたい(迫真)

カウンター

宣伝/広告


ブログ内検索

presentsed by nanatu

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -


宛先不明の郵便ポスト

私の家の近くに宛先不明用の郵便ポストが存在することを知ったのは、私が学校から帰りの電車の中で、低学年のグループの会話に聞き耳を立てていたことから始まる。
そういえば私の家の近くはかなりの田舎で、そういった都市伝説というか、怪談みたいなものは無数にあって、それもその一つかと思って、終点の駅まで結局のところ寝て過ごした。
それがもう数か月くらいのことで、どういうわけか通学路の錆ついたポストに視界が入った時に、すとーんと降りてきた。
どうして忘れていたんだろう、と自問自答してみるも、答えなんか見つかるはずはなく、私は友達のちーちゃんにその話を聞いてみる。
「知ってるよ、それ美紀の家の近くだよ」
ちーちゃんはのんびりとそう答える。
私は本当に実在するのかと驚きつつも、さっそく行ってみることにする。
それも、どういうわけか昼休みに鞄をもって早退してしまう。
「え、早退しちゃうの」
「うん、朝に話したポストが気になって」
先生にも事情を話さずに私は真昼間の校門を通り抜ける。
不思議と罪悪感はなかった。
どうしてこんなにポストにひきつけられるのかは分からなかった。
帰り道の交差点に文房具屋があって、そこでシンプルな便箋を購入する。
誰に送るでもないので、柄なんてなんでもよかった。
電車の中は昼間ともあって、乗車駅から座ることができた。
私は膝の上に鞄を置いて、それを下敷きに便箋を取り出す。
だけど、いざ書こうとすると何も思い浮かばない。
そりゃそうだなと、宛先なんて不明だし、誰かに伝えたいというわけでもない。
郵便ポストといいつつも、宛先不明なんてどういうことだろうか。
私は電車に揺られながら考える。
そうこうしているうちに、目的の駅へとたどり着く。
ちーちゃんからある程度場所は聞いていたので、そのポストに辿り着くのには苦労しなかった。
確かに日中でも人通りは少なく、ポストには回収の時間も書いていなかった。
抹茶色な錆でその表面は塗りつぶされていて、微かに投函口だけが薄暗く開いている。
それこそポストと意識しなければ把握できないくらいに草臥れていた。
「回収されないから、宛先不明?」
私は自問自答してみるけども、全く違うことに気が付く。
回収されないことと、宛先がないことは全然違う。
伝える意思があるかどうか。
だけども、回収されないことを知っていてもなお、このポストに投函する人がいるのだろうか。
ポストの中は薄暗く手紙が入っているかは確認できなかった。
何かを書くことに意味があるのだろうか。
私は先ほどの便箋を取り出して、数十分かけて意味のない手紙を書いた。
最近の友人のことや、悩み事。差しさわりのない戯言のようなものだった。
差出人不明なので、私は宛先も宛名も書かなかった。
ただ無責任に私の日常の一部が切り取られ、手紙へと乗り移った。
釈然としない気持ちを持ちつつも、私はポストに一礼してその場所を後にした。
神社じゃないんだからと思いつつも、不思議となにかお辞儀をしないといけないような気がしたからだ。

そして数か月後、私はまたポストを見て、そのことを思い出す。
どうして忘れていたんだろうと、不思議と首を傾げる。
学校について、早速ちーちゃんにポストの事を話してみる。
「あのポストなくなったんだってね」
えっ、そーなのと、私は驚く。
「知らなかったんだ、あのポストって近くのお墓に人の為に残していたって」
「ごめん、よく意味が分からない」
「私も聞いた話だから、本当かどうか分からないけど」
ちーちゃんの話を要約するとこうらしい。
そのポストの近くにある墓場は戦前身寄りのない人や、誰か分からない人たちの墓場だった。
戦争の慰労からか、その死者に向かって手紙を送るために誰かが壊れたポストを置いて、宛名のない手紙を書き始めたらしい。
その言い伝えが残っていたとのことだが、本当かどうかは誰にも分からないらしい。
ふーん、と私はあまり納得をしていなかった。なにかすとんと落ちてくるものがなかったからだ。
取り壊されたということで、その話ももう消えてしまった。
私の手紙もその残骸とともに消えてしまったのだろう。
誰かに宛てた手紙でもないので、届かなくても何も後悔はない。
でも少しだけ何かが引っかかる、だけどそんな引っかかりなんて、日常茶飯事だし誰もが引っかけたまま日々を過ごしている。

翌年、ちーちゃんが付き合っていた彼氏と別れた。
その日は大雨で誰もいない教室でちーちゃんは一人で泣いていた。
私は進路指導の先生と話していて、荷物を取りに戻ったときの出来事だった。
私は誰かと付き合ったことがないので、別れた時の悲しさは分からない。
いや、そもそも自分以外の気持ちを理解できることなんてできない。
だから、私は黙ってちーちゃんの泣きべそを聞いていた。
相槌も打たない。だって、ちーちゃんの気持ちは分からないから。
学校のチャイムが何回か鳴って、ちーちゃんは泣き止んだ。
ちーちゃんは一言だけ、ごめんと謝った。
誰に対して謝ったのだろう。自分に対して、彼氏に対して、それとも私に対して。
きっと、そのごめんには宛先なんてなくて、誰かに聞いてほしかっただけだったのかもしれない。
「少しだけすっきりした」
ちーちゃんはようやく顔をあげた。
私はポストのことを考える。
あれは何の為にあったのだろう。
持論だけども、きっと何の為でもなかったんじゃないだろうか。
ただ誰に伝えるでもない、言葉を文字として切り取って、捨ててしまうゴミ箱のようなものなんじゃないだろうか。
全部取っておくことができない思いの吐き捨て場とでもいえばいいだろうか。
抽象的な表現だけども、私は勝手にそう思い込むことにした。

だとしたらあの日に書いた些細な私の日常譚もきっと誰に伝えたかったのかもしれない。
それは今はもういない両親に向けての手紙だろうか。
どうだろうか、自問自答してみるが答えは見つからない。
あの日の私がどんな気持ちかだったなんて、もう覚えていない。
そんなに私というものは綺麗に作られているわけではないのだから。
案外適当に構成されているのではないかとも思う。

そのいい加減だからこそ、今はまだ宛先不明の誰かに向けて言葉を用意しておくのも悪くない。



スポンサーサイト